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メシ通 Produced by RECRUIT 赤身至上主義のフランスで日本の「霜降り肉」は食べられているのか?【フランス人の味覚】

※記事内の取材は、2020年10月に感染症対策を実施して行っております。

「フランスは肉料理の国と聞いて楽しみにしていたのに、牛肉のステーキを注文したら予想していた肉と違った」

フランス旅行をした家族や友人から、こういった感想をしばしば耳にすることがあります。

日本の高級牛と言えば、神戸牛に代表される、サシが存分に入ったとろけるような食感の霜降り肉。一方で、フランスの高級牛と言えば、赤身に詰まった旨味を寝かせて引き出した熟成肉です。

そこで今回は、

これらの疑問を、フランスの肉専門レストランでぶつけてみました。

美味しい肉は決して「霜降りだけ」とは限らない

▲スペイン・ガリシア牛の熟成フィレ

パリの隣町、ブローニュ・ビヤンクール。パリ市民の憩いの場所、ブローニュの森の南側に位置した閑静な住宅街が広がる地区となっています。この場所で肉専門のレストラン「Vertus(ヴェルチュ)」を開いているのが、同店シェフの柳瀬充さんです。

柳瀬さんがパリへやって来たのは2006年。京都にて料理人の道をスタートし、フランス料理を学ぶために渡仏しました。

ターニングポイントになったのは、パリで最初に働いたレストランの近くにあった「ル・セヴェロ」という肉専門レストランに出会ったこと。同店の熟成肉に、柳瀬さんは意識をガラリと変えられたからです。

なぜなら当時の日本では、熟成肉というものがほとんど紹介されておらず、「美味しい肉=霜降り肉」でした。柳瀬さんは働いているレストランの休憩時間を利用して、ル・セヴェロへ肉をさばく勉強をしに通う二重生活をスタート。そして、いざ自分のお店を持つときは肉をメインに据えようと決心しました。

▲ヴェルチュの外観

現在、柳瀬さんのお店・ヴェルチュのメニューを開くと、「45日熟成させたサーロイン(現地価格:39ユーロ/2020年10月中旬現在の為替換算で約4,900円)」「50日熟成させたリブロース(現地価格:64ユーロ/2020年10月中旬現在の為替換算で約8,000円)」などメインはすべて肉。柳瀬さんの肉料理への愛が伝わってきます。

フランスが赤身文化になった理由

──こんにちは。この度はお時間を作ってくださり、ありがとうございます。今日は、お肉の話をいろいろ聞かせてください。

柳瀬さん:こちらこそ、ありがとうございます。早速始めましょう。

──まず単刀直入に聞きます。フランス人はなぜ赤身を好むのでしょうか?

柳瀬さん:そうですね、まずヨーロッパの食文化として「肉をどれだけ長く保存できるか」という課題がありました。そのため、肉をハムのように塩漬けして保存する習慣が興りました。

──長期保存には、赤身が適していたということでしょうか?

柳瀬さん:サシの少ないしっかりした赤身だと、酸化に伴いタンパク質がアミノ酸(うま味)に変わり、保存が効きやすい状態になります。一方、脂の多い霜降り肉だと全体的に酸化が早く、保存が難しいです。現在当店で使っているスペインのガリシア牛にも脂がしっかりついていますが、牧草肥育をしていることや10歳を超えた経産牛(出産を経験した牛)であることで、脂が熟成に耐えられる状態になっています。そうした背景があって、フランスをはじめとするヨーロッパでは赤身が主流なんです。

日本が霜降り文化になった理由

──赤身を基本としてきた食文化だと、調理法も赤身をベースとして発展しますよね?

柳瀬さん:それは日本にも言えて、しゃぶしゃぶなどの調理法は、余分な脂を落として食べられるという意味で、とても霜降り肉に合った食べ方です。

──そもそも、なぜ日本人は霜降り肉が好きなのでしょうか?

柳瀬さん:日本は魚文化ですから、新鮮なものを好みます。もちろん魚を使った保存食もありますが、保存よりも、まずは新鮮さに向かいますね。そのためヨーロッパに比べれば「熟成」という意識は薄いと思います。

──肥育※日数も少ない段階で出荷しますよね。

※食用の家畜を太らせ、肉量を増やし、肉の質を高めること

柳瀬さん:牛については、本来は30カ月以上あった方が食肉として味わい深いのですが、日本の場合は24〜26カ月で出荷します。短い期間でおいしく、単価を高くするためにはどうしたらいいかを考えた時に、「量が少なくても満足できる」霜降り肉は最適です。

──そうした短期間で肥育する方針は、日本の自然や畜産業の環境などにも関係していますか?

柳瀬さん:はい、特に黒毛和牛というのは放牧にあまり向かない品種なのですが、日本は急峻な山が多く、牧畜可能な面積もフランスなどと比べて狭いです。そのため、「小さな面積でいかに太らせて、商品価値の高いものにするか」という考え方にも繋がります。

──短期間・小面積が日本の肥育の特徴というわけですね。

柳瀬さん:ただ、綺麗な霜降り肉を作る場合、そのような作り方は牛に負担がかかることがあります。

──具体的には、どういうことですか?

柳瀬さん:価格を上げるためには、特にサーロインの部位に、たっぷりと脂が付くことが良しとされます。そのため、穀物をたくさん食べさせ太らせるんです。それだけを考えて牛を肥育すると、牛の健康状態は悪くなります。

──自分の体に取り入れるものは、できれば健康に育ったものである方が嬉しいですよね。

柳瀬さん:そうですね。日本でも、広い場所で放牧している生産者はいますし、最近では肉牛の生産過程から解体、水分調整まで気を配る考え方が広まっていて、素晴らしい仕事をされる肉屋や料理人の方々もいらっしゃいます。ただ世間では、牛の健康状態より、より脂の乗った肉を求める人がまだまだ多いですね。

▲ヴェルチュのタルタルステーキは、新鮮な肉と熟成肉を混ぜ合わせ味に厚みを出す

フランス人の味覚—霜降り肉の場合

──赤身に慣れ親しんでいるフランス人が、そうして作られた霜降り肉を食べると、どう感じる方が多いですか?

柳瀬さん:「フォアグラを食べているようだ」と言う方が多いですね。

──フォアグラなら、食感的に決してイメージが悪いわけではないと思うのですが……やはり赤身の方が嗜好に合うでしょうか?

柳瀬さん:「赤身がいい」という人が多いですね。フランス人からすると、良い牛肉というのは「噛みごたえがあり、肉の味が深いものだ」という感覚が強いです。そのため霜降り肉を食べると、「柔らかいけど味がない」と思われてしまいます。

──それでは、フランス人に食べてもらえる霜降り肉とはどのようなタイプですか?

柳瀬さん:フランスが今、日本に求めているのは、溶けやすい適度な脂が乗っていて、かつ牛肉の深い味を兼ね備えた、霜降りと赤身のいいとこ取りをしたような和牛です。そのためには肥育の面から見直す必要があります。

フランス人によるフランス人のための和牛

▲ブルターニュ地方で放牧される和牛(写真提供:柳瀬さん)

──そうした“ハイブリッド和牛”は、ヨーロッパではまったく作られていないのでしょうか?

柳瀬さん:いえ、フランスでも数は少ないですが、ブルターニュ地方(フランス西部)に和牛を出荷しているところがあります。ただし、フランス式に放牧して、十分な面積が取れるところで育てています。

──広い面積で育てると、日本のような味の霜降り肉にはならないですよね?

柳瀬さん:味は結構違います。面積も要素の一つですが、大きな違いは穀物ではなく、草を食べているということ。また、どういった草を食べているか、その草がどれくらい栄養があるか、ということで赤身のポテンシャルは変わります。

▲ブルターニュ産和牛の霜降り肉(写真提供:柳瀬さん)

──具体的には、どう違いますか?

柳瀬さん:日本の和牛は脂に力を入れ過ぎていて、赤身の味がないものが多いです。一方、フランスの和牛は草を食べているので脂が軽くなり、赤身にもきちんと旨味が付きます。少し寝かすと分かりやすいんですけど、味がどんどん骨から出てくるんです。

「Wagyu=日本の牛」とは限らない

──フランスでは本来の「和牛」とは別に「Wagyu」※といった言葉もよく知られています。この言葉に、どんな印象を持ちますか?

※日本貿易振興会(JETRO)から引用すると、「和牛」という言葉は「本来的には日本固有の牛の品種」という意味。日本では2020年に「家畜遺伝資源不正競争防止法」と「改正家畜改良増殖法」が成立し、精子や受精卵などを不正取得・使用・譲渡することに対して民事的措置と刑事罰が定められたが、それより以前に海外へ持ち出された和牛もあり、それが外国産“Wagyu”となっている

柳瀬さん:「日本の牛」というより「サシが入った高級なとろける肉」をイメージする人が多いです。今や「Wagyu」は、スペイン、アイルランド、ドイツなどでも育てられていますから。そのため「和牛=日本の牛」ということを理解している人は少ないです。これから日本の和牛を売っていくなかで、日本の「和牛」と他国の「Wagyu」の違いを、どうはっきりさせるかが必要でしょうね。

──パリの高級食材店の精肉コーナーに行くと「Wagyu」の表示がありますし、街中を歩いていても、例えば「Wagyuバーガー」といったメニューを見かけます。

柳瀬さん:「Wagyu」と表示すると高級感もあり売れますから。一方で、名前ばかりのお店が多いのも事実です。Wagyuバーガーなども、ちゃんと作れば美味しいのですが。

──「和牛」の中でも例えば松坂牛などは、牛にビールを飲ませたり、マッサージしたりすることで有名ですが、そういった肥育方法もフランスで驚かれるのでないですか?

柳瀬さん:フランス人に衝撃を与えたと思います。神戸牛がフランスに入ってくるようになったときも、現地のテレビなどで報道されましたし、それらで興味を持って、「一度食べてみたい」という人は増えたように思います。

──「Wagyu」はすでに、パリで肉料理の選択肢の一つとなっていますか?

柳瀬さん:一つの物差しになっていると言った方がいいかもしれませんね。「経験としてWagyuを食べる」と言う方が、しっくりきます。美味しいから毎日食べるというよりは、特別な日にレストランに来たから食べてみようか、という感じです。

──ただ、「Wagyu」にしても値段はそれなりにしますよね。

柳瀬さん:本来の意味での「和牛」の場合はなおさらで、関税や輸送分も含めて値段を出すと、かなり手が出しににくい価格になります。それだけの値段を払っても食べる価値があるかと考えると、多くの人は気軽に注文できないです。

──今後、フランスでの「和牛」の立ち位置はどうなるべきだと思いますか?

柳瀬さん:調理法など日本の食べ方も宣伝しつつ、特別な肉という位置も保ちつつ、プロモーションするのが良いのではないでしょうか。そして、適度な脂と牛肉の味をしっかりと持ったものが増えていけば、私もどんどんレストランでお客さまに提供していきたいですし、実際売れると思います。

▲ 厨房で料理と向き合う柳瀬さん

──フランスの消費者が求める味を高級路線で、ということですね。

柳瀬さん:ただ高級一辺倒だけだと、どうしてもお金持ちしか食べられないので、少量でも一般的に食べられる機会があると良いですよね。

──気軽に食事できるというのは、大切ですね。

柳瀬さん:じつは私も、一つのチャレンジとして、カウンターで気軽にステーキを食べられるお店を開いてみたいと思っています。レストラン形式だと、どうしても時間が長くかかったりするので、普段使いで通えるステーキ店がパリにあったらと思っています。とはいえコロナ禍の今、いつ政府から飲食店に対して営業停止の通達があるか分かりませんから、不動産を持つことは経営者にとって重みです。だからこそ、自由に移動でき、かつクオリティの高いものを出せるキッチンカーにも興味が湧きます。

──確かに、そういうところで少量の高級和牛を出して、消費者が試せる機会を提供するのも、一つのアイデアですね。

▲柳瀬さん(左)と同店ソムリエの藤本玲さん(右)

まとめ

今回のお話を元にすると、

であることが分かりました。

生産者の努力が積み重なり、近い将来日本とフランスの良いところを兼ね備えた牛肉が、フランスのガストロノミー界をさらに席巻する日が来るかもしれませんね。

お店情報

Restaurant Vertus

住所:45 Bis Rue d'Aguesseau 92100 Boulogne-Billancourt 電話:+33 1 41 31 24 08 営業時間:ランチ/12:00~14:00(L.O.)、ディナー/19:30〜21:00(L.O.)定休日:日曜日、月曜日

書いた人:守隨亨延

ジャーナリスト。日本メディアに海外事情を寄稿。主な取材テーマは比較文化と社会、ツーリズム。取材等での渡航国数は約60カ国。ロンドンでの生活を経て現在パリ在住。『地球の歩き方』フランス/パリ特派員。

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